佐藤雄駿 セルフライナーノーツ
” 「ニヒリズムの散文的歌集」に存在し得る僕のこと”
NON’SHEEPの楽曲制作において、僕が最も大きな役割を担い、力を注ぐ作詞。
今回のアルバムでは、その作詞を今までとは違う環境に身を置いて取り組んだ。
普段なら自室にこもって机の前で煩悶しながら歌詞を考えるのだけれど、今回は延々と夜道を歩きながら全ての作詞をした。
2~3月のとても寒い時期だった。
この期間、僕は夜になるとおもむろに徘徊の支度をし始めるのが日課になっていた。
靴下を二枚履き、着られるだけの服を重ねる。万全の防寒をし、スマートフォンとiPodだけを持って外へ出る。
イヤフォンをし、まだ歌詞のない新曲のリハーサル録音を流す。
再生ボタンを押すとき「今日は書けますように」と願いを込め、”溜息”を吐く。
人気のない道を選んで、不審なくらいゆっくりとした速度で、ひたすらに歩く。
繰り返しリハーサルの演奏を聴きながら、言葉を書き留めていく。
大体、平均で二時間程度歩く。長いと三時間歩くときもあった。
吐く息は常に白い。
歩く道はいつも決まっていたけれど、はかどり具合によっては道筋を変えて、長く歩くこともあった。
歩きながら考える、という手法は僕に合っていたように思う。
歩き続けていると、煮詰まって滞留してしまった思考が、地を踏む足の裏から溶けて、滲み出ていってくれるような感覚があった。
おかげで身軽になった思考は同じところに止まりづらく、違う角度から言葉を探すことができる。
振り返ってみると、今回、煮詰まっている時間は明らかに短かった。
作詞は思いの外、テンポよく進んでいった。
ニヒリズムの散文的歌集では、僕の敬愛する作家たちの言葉を意識的に使っている部分がある。
「未遂」の”見る前に翔べ”というフレーズ。これは大江健三郎氏の”見る前に跳べ”という小説から。
「誤解」「転落」という題は、カミュの小説、「斜光」という題は中村文則氏の小説にもある。
「誤解」という題は「和解」にしようかとも考えた。このとき僕の頭には志賀直哉の小説「和解」がよぎっていた。
どれも僕にとって大切な作品だ。
こういう趣向を少しではあるけれど、意識的にちりばめられたのも、今回の作詞のテンポの良さからきた素直さのように思う。
そして今回の”ニヒリズム(虚無的)”というアルバムタイトルをある意味一番纏っていると感じるフレーズが「窓辺」という曲にある。
” その気などなくなって喜びに向かっていく ”
希望や期待というものに対して、僕の距離の取り方が表せたと感じている。
僕たちは幸福に向かっていく。
歌にせずとも、人はみな幸福になろうと赴いていく。
楽観的であり、人間への信頼でもあり、どこかそういうものでしかないという諦めも孕んでいる。
僕は歌詞を書く上で、誰かの背中を押すつもりなどない。
突き放すつもりはないが、聴き手を意識した希望の残し方みたいなことも一切考えなかった。
むしろ排除したと言ってもいいくらいで、書きたい表現だけをしようと努めて書いた。
けれど、軽快とまでは言わずとも、いつもよりはかどった今回の作詞作業に、実はうしろめたさもある。
机で頭をかかえ、言葉をひねり出し、閉鎖的な世界で細部に気をとられながら推敲を重ね、牛歩の速度で進めていくのが今までだった。
外で景色が変わっていく様子を見ながら、歌詞を考えていると、細部に気を取られづらくなる。
たゆまず進んでいく良さもあるけれど、細部に気をとられるのもときに大切だ。
率直である分、言葉の深度は浅く、ポエジーに欠けてしまう。
今回はこの手法でいい、と腹をくくったつもりでも、うまくそうもいかないのだ。
そのうしろめたさが”散文的”というアルバムタイトルに表れている。
この自虐も、らしさ、だと思ってもらいたい。
「路頭」という曲が収録されている。
この歌詞の主人公は、あてもなく夜道を徘徊しながら、答えの出ない日々、これからの生活に鬱々とした思考を巡らせている。
いうまでもなく、このシチュエーションは今回の作詞作業をしているときの僕と、同じ”それ”だった。
” 夜の溜息 路頭に溶けていく ”
という歌い出しで始まる。
このアルバムの言葉を生み出す行為はいつだって、夜道を歩き始めるときにつく”溜息”から始まっていた。
僕は歩きながら、視界に入るそこに在るものは、ただそこに在るものでしかない、と思い続けていた。
” ヘッドライトが横切る瞬間
見ていただけ それだけのこと ”
“横断歩道 三途の川じゃない
水たまりには汚れた水だけ ”
確固たる寄る辺も目的地もなく歩き続けるのは、生活そのものだ。
目に映るそこに在るものが、それ以上でも以下でもないということが、今の僕にとって確かなことだった。
” 人は死んだらどうなるの?
どうして生まれてきたの? ”
これほど素直な言葉で書いたのも初めてだ。
そして
“ 眠れる夜は幸せ
もうあとはなるようにして ”
と続く。
あてもなく歩きながら、答えも出ないまま、生活という路頭に迷っている。
最後は
” 答えの出せない日々が
いつか見違えるとは思っていない
期待じゃない
そろそろ引き返そうかな ”
と締めくくられる。
生活に期待もせず、答えも出ないまま、この徘徊をしめくくる。
歌詞が書けても、生活の答えが出たわけではない。
それでも、そろそろ引き返そうかな、と思うのだ。
思わざるをえない、と言ってもいいのかもしれない。
日々の締めくくりはその連続から成る。
その空気が、「ニヒリズムの散文的歌集」というアルバムに通底し、漂っている。
鬱々とした夜道の徘徊の空気が、このアルバムに内包されていると信じているし、それが伝われば幸いだと思っている。
佐藤雄駿
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